倒れる稲と倒れない稲 台風で倒れた稲は、なぜ倒れたのか? その2

茎が細くなる原因は何か?

 

倒れる稲には、第4~第6節間が細く伸びあがっている、

という特徴があることが分かったかと思います。

 

稲の茎が太くなるか、細くなるか、

どうして決まると思いますか?

 

Photo by Natsuko Takehara
 

茎の太さは維管束の数で決まります。

 

維管束というのは、シダ植物と種子植物が持つ、

水や栄養分を運ぶ管のことです。

 

 

根から吸い上げた水や栄養分を全身に運び、

葉の光合成で作ったでんぷんを全身に運ぶ、

そういう役割をしています。

 

 

ですから、茎の維管束は、枝分かれして葉や穂にも続いています。

人間でいえば、血管みたいなものなんです。

 

維管束がわからない人には、

葉脈だよというとわかりやすいかもしれませんね。

 

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葉脈の中に維管束が通っているんです。

 

葉脈は堅いイメージがありますよね。

 

 

稲に維管束ができるのは、初芽して、葉が伸び出してくるときです。

 

その時は、稲にはまだ茎が無いのですが、

苗が太いほど維管束が発達し、数も多くなります。

 

 

維管束の「維」は、繊維という意味です。

 

維管束は細胞壁が発達してつくられた、

パイプラインやチューブのようなもので、

固くて丈夫なんです。

 

稲がしっかり立っていられる理由は、

維管束の数が多く、細胞壁が固くてしっかりしているからなんです。

 

 

植物の体には骨がない代わりに、

ひとつひとつの細胞壁が、身体を支えています。

 

 

細胞壁はセルロースで出来ています。

 

 

セルロースは固い繊維ですが、

グルコースという糖が沢山連結してできているんです。

 

つまり、光合成で作られたでんぷんからできたのが、

細胞壁というわけです。

 

細胞のうちでも維管束は特に、

細胞壁がしっかりしているわけなんです。

 

 

セロリの茎を切ってみると、

維管束がよく見えますよ。

 

写真はルバーブの切り口です。

維管束が見えますよね。

 

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苗の時に、光合成をさせる期間が長く、

温度があまり高くなければ、

維管束が発達するのです。

 

維管束が発達していない稲は、

苗の時に、やわらかく細いということになります。

 

穂が作られた時にできる茎が細くなる原因は、

苗の時に維管束を十分に発達させていないからと考えられます。

 

葉鞘の中にできる茎が細くなってしまうんです。

 

 

肥料のやりすぎで稲が倒れるのか?

 

上記のような維管束の説明をしても、

稲の倒伏について説明すると、

肥料のやりすぎで倒れるんでしょうか?と、

質問される方がいます。

 

ここで、すでに私と質問者との間に、

ボタンの掛け違いが起きているんです。

 

 

私は、維管束がたくさん作られる体質は、

苗の時に作られるという説明をしているのですが、

質問されている方は、田んぼに植えられてからの、

肥料の量で倒伏が起こるのでしょうかと質問しています。

 

 

もちろん、要因として全くないとは言えませんが、

どちらかというと、二次的要因になるんです。

 

維管束がしっかりと固く丈夫にできていて、数が多ければ、

田んぼで育つ稲の茎が太くなります。

 

 

肥料欠で、分げつが減りますが、茎がそれほど細くはなりません。

 

 

一方、肥料過多の田んぼ、肥料のやりすぎの場合は、

茎が細い体質のまま、背丈が伸びるんです。

 

その結果、第4~第6節間が細くなり、

倒伏の原因になるわけです。

 

ですから、肥料が多いことは、二次的要因です。

 

 

維管束が発達し数が多く、苗が太ければ、

田んぼに移植した後も、稲は葉鞘を太く巻きます。

 

見た感じは、田植え後の稲の茎が太いように目ますが、

これはまだ茎ではありません。

 

幼穂ができて茎ができた時、出来た茎は太くなります。

 

穂首(ほくび)を観察すれば、茎が太いか細いかわかります。

 

Photo by Natsuko Takehara
 

茎が太ければ、例え、肥料過多で稲の背丈が伸び続けても、

倒伏しないで、台風でも、よじれる程度で済むわけです。

 

チッソ、リン酸、カリの割合が悪いのでしょうか?とか、

バランスや割合をきちんとしなければいけないのでしょうか?

と考える方もいるようですが、

土の中に入れた肥料の成分割合を、

机上の理論でコントロールできると考えないほうが良いと思います。

 

田んぼには水があります。

 

排水したり、入水することで、

土に含まれる肥料分量は常に変化しています。

 

 

チッソ、リン酸、カリの割合が、倒伏に関係するならば、

米ぬかや穀物粕、魚粕などの有機質を使った場合、

割合がきちんとしていないから、

倒伏につながるという理論なのでしょうか?

 

 

「ドネベックの桶」を今一度勉強し直してほしいと思います。

 

 

稲という植物を生きものとして見て欲しいと思います。

 

 

たとえ、成分割合がきちんとわかっている化学肥料を

田んぼに多く入れたとしても、

茎が太いか細いかで、倒伏するかしないかの違いが、

起こってくるからです。

 

 

最近は、一発肥料を使う農家の方が増えました。

 

これだと、田植えの時の側条施肥だけで、

肥料撒きが済んで楽だからです。

 

 

ただし、農協の言うとおりに注文して、

毎年撒けば、肥料過多になることは間違いないと思います。

 

 

どうしても一発肥料を使いたいなら、

田植えの2カ月前に、少な目に撒いておくことをお勧めします。

 

 

稲を見ない稲作り

 

茎が細いことで稲が倒れる場合は、

苗の時に維管束が少なく細いことが原因だとしたら、

あなたの育てている苗はどうか、よく観察してみてください。

 

稲の苗を良く観察したら、

今度は田植えの時の苗の様子、

田植え後、1週間後、2週間後、1か月後の姿を、

良く観察してください。

 

あなたの稲は、どんな風な姿や色で、

どんな葉の長さで育っていますか?

 

 

稲を見ないで、首振り農業をしている人が多いんです。

 

首振り農業というのは、

周りの人が作業を始めたら、自分もはじめる、

どこかで話を聞いてきたら、

自分の田んぼや稲にとって適期かどうかを見極めないで、

聞いてきたことをやってみるという農業のやり方です。

 

 

自分が育てている苗はどんな苗なのか、

隣とどう違うのか、観察することもしないのです。

 

 

自分の田んぼの稲と自分の田んぼの稲がどう違うかも、

観察しないでいるわけです。

 

 

稲を知らない稲作り

 

今、農家の人でさえ、稲のことを知りません。

 

稲を見ないし、田んぼにもほとんど入りません。

 

そんな実例をお伝えしましょう。

 

 

田植えの時の話です。

 

田植えの手伝いに行ったところ、

田んぼにたっぷりと水が入っていました。

 

朝一番に、パイプラインの蛇口を開けたのでしょう。

 

一方、その家で育てた苗は、

とても短い苗でした。

 

Photo by Natsuko Takehara
 

種まきの時期が遅くなってしまったそうです。

 

短い苗をたっぷり水が入った田んぼに田植えしたら、

全て水没してしまいますよね。

 

でも、そんなことを考えてもいないわけです。

 

 

すぐさま、私は、水を止めて暗渠(あんきょ)の栓を抜いて、

排水するように言いました。

 

 

田植えを頼まれて田植機を持ってきた人も、

時間つぶししなければならなくなりました。

 

ある程度水が抜けたので、田植えを始めましたが、

水は地面が見えるまで抜き続けてもらいました。

 

 

いつ水を入れたらよいかとの質問に、

3~5日後に入れてくださいと伝えました。

 

 

「どうして、田んぼに水が無い方がいいんですか?」という質問。

 

 

私の答えは、次のようなものでした。

 

皆さんが育てた苗は陸稲(おかぼ)の苗です。

水苗代やプール育苗で育てた苗は、水稲(すいとう)の苗です。

 

陸稲の苗の根には通期系が無いので、

新しい根が出るまでは水が少ない方がいいんですよ。

 

根が土をつかんでから、水を入れていけば、

新しく出る根は、水稲の根に変わっていきますよ。

 

 

この家の田植えの苗は、ハウスの中に育苗箱を並べ、

灌水しながら育てたものです。

 

種もみが発芽する時、初めに芽が出ます。

 

根は後から出ます。

 

根の表面の内側には皮層組織という細胞の集まりがあります。

 

 

水の中で苗を育てていると、

皮層組織の細胞が壊れて穴が開き、

酸素を通気する穴ができるんです。

 

この通期系を破生間隙(はしょうかんげき)といいます。

 

 

ところが、陸稲には、この通期系の穴ができません。

 

稲の根が水を張った田んぼで、育つのは、

この穴、破生間隙が根っこにできるからなんです。

 

ハウスの中で、灌水しながら育てた苗には、

破生間隙が無いんです。

 

 

ですから、田植えの時に、水にどっぷりつけると、

今まであった根が死んでしまいます。

 

今まであった根が土をつかんで、3日ほど根を張る頃、

新しい根が出て来るので、その時に水を入れてやれば、

新しい根に、通気系ができて来るんですよ。

 

これについて、いまだに新しい文献を見つけられていませんが、

今迄あった細胞が壊れて破生間隙を作るのは、

アポトーシスではないかと思っています。

 


破生間隙についての説明は、

『不耕起でよみがえる』に書いてあります。

 

 

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